失われた命は、確認できただけでも、1万2164人に上ります。
20日には「大規模空爆の可能性があるという具体的な情報がある」として、キーウにあるアメリカ大使館が閉鎖を決定。スペインやイタリアの大使館も、一時閉鎖することを決めました。
ウクライナ・ゼレンスキー大統領(19日)
「ウクライナの全土に対する権利を放棄するつもりはない」
しかし、少しずつ何かが変わってきています。
アメリカ・トランプ次期大統領(6日)
「戦争は始めない、止めるつもりだ」
次期アメリカ大統領に選ばれたトランプ氏は、ロシアのプーチン大統領との停戦交渉に前向きです。トランプ氏の政権移行チームが検討している和平案は、現在の前線に沿った非武装地帯の設置などで、そこにウクライナの主張はありません。
欧州議会で演説したゼレンスキー大統領。
ウクライナ・ゼレンスキー大統領(19日)
「嵐の中に平穏な海はありません。この戦争を公平に終わらせるために、全力を尽くさねばなりません。ロシアを実質的な交渉に引き込むには動機が必要です。ロシアの領内の弾薬庫や兵站への攻撃、空軍基地を破壊し、ミサイルや無人機の生産能力を奪い、資産の没収が必要です」
19日のニューヨークタイムズは、ウクライナとアメリカの高官の話として、ウクライナが、アメリカ製の長距離ミサイル『ATACMS』で、ロシア西部・ブリャンスク州の弾薬庫を攻撃したと報じました。
『ATACMS』は、去年秋、ウクライナに供与されていますが、ロシア領内を直接攻撃できないよう、射程が抑えられていました。しかし、北朝鮮の部隊が参戦したことを受け、バイデン大統領は、ロシア領内への使用を承認。それにより、ロシア西部が射程内に入ることになりました。ただ、今回、ウクライナが狙った場所は、国境から100キロほどのところにあるものです。
今回が初の攻撃とみられますが、ゼレンスキー大統領は、使用について明言は避け、ドローンなどを含め「すべてを活用する」としています。
ロシア側は、「長距離ミサイルの使用は、戦争への直接関与と同じだと警告してきた」としたうえで、改めて“核”という言葉をチラつかせました。
ロシア・ラブロフ外相
「アメリカ人なしで、これほどのハイテクミサイルを使うことは不可能だ。本日、公表された核ドクトリンを読んでほしい。国連憲章のように都合よくではなくて、注意深く読んでほしい」
◆防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。
ロシア領内の攻撃に使われたとされるアメリカ製の長距離ミサイル『ATACMS』。こうした動きに対し、プーチン大統領は、核兵器の使用条件を大幅に引き下げた大統領令に署名。「非核保有国による侵略でも、核保有国の支援を受けていればロシアは共同攻撃とみなす」と、欧米諸国を念頭に、「核抑止の対象だ」としました。
(Q.プーチン大統領が核使用のハードルを下げるところまで来ていますが、この一連の動きをどう見ますか)
兵頭慎治さん
「戦争が始まってから、プーチン大統領は核使用を示唆するという、核のカードをちらつかせながら、欧米諸国によるウクライナへの軍事支援を何とか抑止しようとしてきました。今回も、ゼレンスキー大統領が、ATACMSの使用許可をバイデン大統領に求めるタイミングで、核の使用のハードルを下げるという動きをプーチン大統領は見せています。ただ、結果的に、プーチン大統領の思惑が外れて、バイデン大統領がATACMSの使用を認めることになった。今後、核使用のカード、効果を維持するために、核戦力の増強を誇示するとか、核使用を示唆する演習を繰り返すとか、場合によっては、核実験をやる可能性もありますが、それでも、これまでの核使用の効力は徐々に低下しつつあるということではないかと思います。今回、ATACMSが使用されたことに対する反応としても、いきなり核を使うことは、さすがのプーチン大統領も簡単ではないので、キーウなどへの空襲、これまでの大規模な報復攻撃を当面は行う可能があるのではないかと思います」
(Q.一方のウクライナ側ですが、ATACMSでの攻撃の狙いは、どこにあるのでしょうか)
兵頭慎治さん
「軍事的に戦況を大きく変えるのは簡単ではないと思います。すでにロシアの爆撃機などは、ATACMSの射程圏外に退避しています。また、アメリカ軍も在庫が十分ではないので、ウクライナ軍に供与できる数が限られています。ですので、政治的な狙いのほうが大きいのではないかと思います。現在、北朝鮮兵がクルスク州に1万人くらいが戦闘に参加しているということですが、ウクライナ側は、これが10万人に増強されるのではないかと、警戒を示しています。クルスクなどにATACMSで攻撃を加えることによって、北朝鮮の増派を抑止していきたいし、トランプ氏が停戦交渉を突き付ける可能性がありますので、クルスク州を軍事制圧するというのが、交渉の切り札になるのではないかという見方もあります。クルスク州の軍事制圧を何とか維持させるためにも、今回、容認したのではないかという見方があります」
(Q.トランプ氏は「戦争を就任前に終わらせる」と主張していますが、現実味はあるのでしょうか)
兵頭慎治さん
「大統領選挙キャンペーン中のテレビ討論で公言されました。そして、すでに、ゼレンスキー大統領とプーチン大統領とも電話会談したとも伝えられています。トランプ氏自身は、やるつもりはあるみたいです。ただ、問題は、プーチン大統領、ゼレンスキー大統領の両者を交渉のテーブルに引き寄せることができるのかということ。そこで、ウクライナに対しては『軍事支援やめるかもしれない』という働きかけをし、プーチン大統領には『ウクライナへの支援を増強するかもしれない』と言いながら、両者を交渉のテーブルにつかせる可能性もあると思います。ただ、過去、ドンバスの紛争も、2回、停戦合意が結ばれましたが、すぐに反故にされたということもありました。ウクライナ側からしても、現状、ロシアに支配された状況で、停戦合意を受け入れるというのは、そう簡単ではありません。ですから、両者…